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奥野教授と「ソンディテスト」のご紹介


『佛大通信』Vol.518(平成20年11月号)より転載
 

 

自分の運命を知り、
どういう選択をし、そこから
新しい人生を切り開いていくために
意味のある研究なんです。

奥野哲也 教授(教育学部 臨床心理学科)

ユダヤ人として生まれ、第二次世界大戦を生き抜いたレオポルド・ソンディ(1893~1986)が創設した「衝動診断学」(ソンディ・テスト)は、二派に分かれた精神分析学の統合の思いから生まれました。奥野先生の、「人は同じように生まれてくるのに、何故違うのだろう」という、子どもの頃からの疑問・好奇心が、先生の現在いまを形づくっているようです。



『ソンディ・テスト入門』(監修・共著、ナカニシヤ出版、04年)は、先生を中心とした「紫野ソンディ研究会」の活動から生まれた。

ソンディ・テストという言葉は初めて聞く言葉なのですが。

さて、どのようにお話ししましょうか(笑)。ソンディ・テストは理論が大切なんですね。またテストの時の記入方法なども細かく決められていて固苦しい印象がありますが、それを充分に理解すれば、テスト自体は非常にシンプルなものです。人の顔写真を見て好きか嫌いかを求めるだけです。ある時、私自身もコンピュータを導入しマークシートを挿入すれば所見が自動的に出るソフトを考えたのですが、便利になったおかげで初心者にはソンディの理論をしっかりと究めようとすることが薄れた風潮がみられ、開発するんじゃなかったと思いました(笑)。それほどにテスト自体は簡単ですが、出てきたものを解釈すること、ソンディの理論に沿って見極めることが大切なんです。

精神分析学はご存知のようにフロイトが創設したものであり、それを引き継ぎ、そして別れたユングの分析心理学も、どちらも深層心理学なのですが、ヨーロッパにおいては、フロイト派とユング派の二つに歴然と分かれています。ソンディという人は、この二つの派を統合したい、言葉を換えれば、新たな精神分析学を作ろうとしたのだといえます。

フロイトのいう無意識の中心にあるのは性的セクシャルな衝動であり、それは個人的な無意識です。ユングがこれと決定的に違うのは、個人的なものではなく、普遍的あるいは集団的無意識、過去から現代まで伝わっている人類共通の無意識(つまり心的エネルギー、生きるエネルギー)であると考えたところです。さてソンディは、フロイトとユングを統合しようとして、個人と集団を結びつける家族的無意識という概念を考えた。そして「衝動」は、無意識は遺伝すると考えた。「精神の遺伝子」を想定したんですね。肉体にも遺伝子があるように、精神の遺伝子もある、と。先日「離婚遺伝子の発見」という記事が新聞に載っていましたね(笑)。遺伝子ゲノムの研究が進めば、ソンディの考えた精神の遺伝子が証明される時代が来るかもしれませんね。

ソンディのいう家族的無意識とは、祖先が欲求しながら果たされなかった、あるいは残された、未解決の欲求が、強く因子の中に残されて子孫に伝わっていくと考えました。こうなると、これが心理学なのかどうなのか。生物学のようでもありますし、簡単に検証しにくい要素もあり、「心理学は科学である」と主張する学者たちには受け入れ難いところはあるのでしょう。フロイトも受け入れられるには、時間がかかりましたよね。

統合は上手くいったのでしょうか。

ソンディはそれを証明するために、そこには「選択」というものがある、とします。その選択の集合体が人生である、人生は、「あれかこれか」の積み重ねであると考えます。たとえば、どういう相手と結婚するか、また肝胆相照らす友人をどう選ぶか、職業もまた、何故これを選ぶのか。人生を決する大きな選択の時には、隠されている遺伝因子が働き、それが作用し、人をして選択させる、と。さらにはどういう病気に罹るかという疾病の選択、加えて自殺など特別な死、これらすべて選択であると考えました。これらを「人生の五大選択」といっています。

そして一人一人を分析していく中で、あるタイプの人はこういう選択をする、という証明を目指し、その証明のための道具として、あるいは、衝動の遺伝因子を見つけるための道具としてテストを開発します。それがソンディ・テストです。

ソンディは、人が自分の中にどんな因子があるのかを知ることによって、どういう選択をしていくのかを知り、自分の運命を知り、そこから新しい人生を切り開いていくことができる。それがソンディの研究の成果であると言っています。「運命心理学」という新しい概念を作り出しているんですね。

またソンディ・テストは、深遠な理論であって、すべてを理解するには、なかなか難しいものがあります。その論理的思考の中でソンディの考え方になりきることが要求されています。その理論の研究をしていかないと、本当はソンディをやる意味はないのでしょう。一つひとつの反応結果(食材)を書き集めても、その反応全体がどうなるのか、言ってみれば「どういう料理ができるのか」がわからなければ意味がない、というわけです。

通信教育生へのメッセージをお願いします。

私は子どもの頃から、人は何故違うのか、その違いはどこから来るのか、違いとは何か、ということが気になっていました。また私の名前は哲也といいますが、その名前のせいか(笑)、物事を理屈っぽく考えるのが癖でした。したがって単なる理論だけのものに飽き足らず心理学を学び、ソンディに出会いました。理論と「人の科学テクノロジー」を考える接点にあるのがソンディ・テストの考え方だと知ったんでしょうね。

だからというわけではありませんが、皆さんには「好奇心」を持ってほしいと思います。好奇心、それは人間の命の原動力だと思います。好奇心を失わずに、追求してほしい。自分の好奇心を探求することは、まさに人生なんです。

ソンディは「人生は選択である」と言っていますが、彼はまた自分の論理は弁証法的なものだとも言っています。弁証法とは、テーゼ(命題)とアンチテーゼ(反命題)があり、その統合であるジンテーゼ(統合命題)が生み出される。つまり矛盾対立するものを統合するのがソンディ理論の真髄です。ソンディは心理学と精神医学・心理学と哲学や生物学を統合しようと探求を続けました。そこには人間の心理を知りたいという好奇心があったんだと思います。


PROFILE

おくの てつや

1944年京都市生まれ。67年立命館大学文学部哲学科心理学専攻卒業。精神科病院での臨床研究の後、69年法務省の心理職(法務技官)に任官。各地の刑務所・少年院・少年鑑別所に勤務、99年徳島少年鑑別所長。2000年より現職。専攻は臨床心理学・犯罪心理学。臨床心理士(登録第00487号)。主な論文に「被虐待児童の衝動分析と治療的対応について」(『佛教大学教育学部論集』18号・19号、07・08年)、「3 時制の描画法について」(『佛教大学臨床心理学研究紀要』13号、07年)、「非行の凶悪化とソンディ・テスト所見」(『佛教大学臨床心理学研究紀要』6号・7号、00・01年)など。

ソンディ・テスト実施中
ソンディ・テスト実施中。8枚の顔写真が並べられていく。


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Last Modified: 11/01/2008 15:37:02